チューリヒから田園地帯を特急でベルン、乗り換えてインターラーケンへ。インターラーケン・オストから登山鉄道で山間をぬって登っていく。30分余りで1週間過ごす予定のグリンデルワルト駅(標高1034m)に到着。グリンデルワルト駅は中国人インド人コリアン、イスラムそして2割ほどの欧米人,国際色豊かだ。
駅から歩いて2分のホテル、ベル・エア・エデン。2階の部屋のバルコニーに腰掛けて茜色に染まるアイガーを眺めていると寒くなってきた。バスタブに浸かってそのまま体も洗わずベッドに倒れこむ。疲れがどっと出たようだ。
6月16日
ブリエンツ湖周遊とシーニゲ・プラッテ(1967m)
朝から雨。連日の疲れもあって最悪の気分だ。傘をさしてホテルを出発。出るとすぐに駅なのはありがたい。
インターラーケン・オストから遊覧船に乗ってブリエンツ湖をクルージングする。雨天にも関わらず世界各地からの満員の乗客。シーズンともなるともっと賑わうことだろう。
ブリエンツで降りて湖のほとりで昼食を食べる。軍服の若者が通っていく。スイスは徴兵制がしっかり敷かれていることを思い出した。この美しくて平和な風景を保つため厳しい現実があることを再認識させられる。
シーニゲプラッテへはかわいい登山電車に乗って湖を見下ろしながら急こう配をどんどん登っていく次第に雪景色になってきて霧がかかって何も見えなくなっていき、意気消沈。去年も来た他のメンバーがとても眺望が効いて良かったというのを聞くと余計腹立たしくなっていく。
全然眺望が効かないうえ、寒くてたまらない。高山植物園だというのに雪をかぶった花たちは元気がないし、滑りそうで足元がおぼつかない。
「天気の良い日にまた来てもいいし。」と慰められて降りることになる。
6月17日
クライネ・シャイデッケ(小さな峠 )(2061m) ミューレン(小さな峠) (1650m)
一晩中雨が降って気分消沈。朝食の時椛島氏が登ってみるとまた天気は違うものだと言われるが気休めにしか聞こえない。
グリンデルワルト駅から一旦グルントまで下ってからスイッチバックでクライネ・シャイデックまで32分。電車から降りた時はほとんど雲がかかって視界ゼロ。 やはり今日もついていないのかとがっかり。
新田次郎の碑を見たあと駅の左側から降りてひと駅歩くことにする。歩き出すと少しずつ雲が動き出してメンヒ(4107m)の姿が現れてきた。あとは段々ユングフラウ(4158m))、アイガー(3970m)北壁までが!その度感嘆の声が上がる。氷河の白と青い空のコントラストの美しさ!登山道を縁取る草花の可憐さ!写真を撮ったり振り返ったり、一向に前に進まない。
遠くの稜線に別ルートを歩く登山者の小さな姿、可愛登山電車。時々山を管理する作業車が通るだけ。切り株に座って昼ごはんにする。ご飯とみそ汁が美味しい。
電車、ロープウェイ、電車と乗り換えミューレンへ。崖に沿って街並みが続いていて、土産物店やカフェが軒を連ねているが素朴でのんびりしている。つなぎ服と奇妙な装置の若者達のあとについていくとなんと崖の上からジャンプして下へ。
突然雨が降り出し、道に水蒸気が上がる。猫の目のように天気が変わり、寒かったり暑かったり、山の天候は過酷だ。
夕食はコープで買った生野菜のサラダ、アスパラガスのスープ、パン、ビール。
朝出発時は天気運の悪さを悲観して落ち込むばかりだったが、だんだん好転して、山歩きの醍醐味を味わえた。明日はどうなるのか、山の神様、なんとかお願いします!
10時過ぎ山の方から恐ろしい音が響く。雷だろうか。
6月18日
ユングフラウ・ヨッホ(3454m)
目覚めると晴天の様相。若干アイガーに雲がかかっているが青空も見える。絶好とまではいかなくてもきっと良くなる予感を抱かせる空の色。駅には大勢の客が詰めかけていて人種のオンパレード。特にインド人の家族連れが目立つ。同席のカップルはとても品の良いブラジル人の美男美女。
クライネシャイデック経由でほとんどトンネルの中を走る。途中アイガーグレッチャー駅とアイガーヴァンント駅で5分ずつアイガーの絶壁をみるはずなのにガラスの向こうは真っ白でなにも見えない。だんだん不安になる。アイスメーア駅でもほとんど見えない。
標高3571のスフィンクステラスではほんの少しメンヒが見えるだけ。雪原に出ると周囲に雲が立ち込めているのに頂上だけに太陽が照っていて暑くて紫外線が強い。日焼けが気になるし、酸素が薄いので頭痛がしてきた。氷河まで歩く元気がない。早めに切り上げることにした。
帰りの電車で同席した日本人ガイドの青年の話を聞いて胸のつかえが下りた。まだ今日の天気はラッキーな方で昨日はもっとひどくて本当に何も見えなかったそうだ。山の天気はそんなものなのだ。いつでも完璧な風景を求めるのは観光客のおごりだ。
スイスの風光明媚さを保つ努力を国を挙げ共有している現実を説明してくれる。家一軒建てるのにも地域全体で協議して、一軒の家に4家族が住む間取りにする。地下にランドリーを設けて、各家族は4日に一回しか洗濯ができない。ゆったりした風景はそのようにして保たれているのかと感心する。
アイスグレッチャーからクライネシャイデックまでは雲の中を氷河を見ながら尾根伝いを歩くコース。小さな雹が吹き付け視界が効かない中を一列で歩いていると怖くなってしまった。
途中から同行した韓国青年のチュン君がしんがりを務めてくれたので心強かった。チェジュ島のホテルですし職人をしていたというチュン君。銀座のすし店で修業したこともあるという。
晴れてさえいればなんということもないコースらしい。山の天気の恐ろしさを再認識した。
アイガーグレッチャー駅を背にして食べた昼食。氷河を眺めながらすばらしい気分だった。
6月19日 グロッセシャイデック(1961m) 大きな峠 へ
今朝もかなりの雨。バスでヴェッターホルンの足元のグロッセシャデックへ。途中から一般車両進入禁止の狭い道をバスは愉快なクラクションを鳴らしながら登っていく。到着してがっかり。横なぶりの雨、雪が残っていて寒さが強烈。
そのままレストランに駆け込んでコーヒーを飲みながら小雨になるのを待つ。待てども弱まる気配が無い。次のバスで降りることにする。
狭い道路に牛がのんびり立っていてドライバーは警笛を鳴らすがそれでも動かないと頭をなでる。
下っていると少し雨が弱まってきたので降りて歩くことにする。傘をさして花を見ては道草しゆっくり歩く。鹿の牧場、放牧された牛たちなど人間には会わないが動物にはよく出会う。
ゴンドラでフィルスト(2171m)へ上がる。片道20分のゴンドラの中で昼食にする。ここでもまた雲で真っ白、何も見えない。
ガッカリしてまたゴンドラで降りる。ホテルまで歩くことにして、民家の中を通る生活道を歩いてみた。
どの家にもスイスらしい木の壁、バルコニーが付いていて赤い花を飾ってある。森や草花とマッチして心が洗われるようにしっとりした風情。新築中の家を見ると、鉄筋コンクリートを木の壁で覆って古民家風にしてある。地下室には大型の洗濯機プレス機が置いてある。
4時過ぎには部屋に戻ってお茶していると4:29の電車でインターラーケン・オストへ行かないかと椛島氏の誘い。宣子さんと3人で電車に飛び乗って30分でインターラーケン・オストへ。500m下がると気温が違う。
ベルナーオーバーラントで一番大きな街なのでさすがに立派なホテルやしゃれた店が大通りに面して並んでいる。大津市が1978年に寄贈した日本庭園があって庭樹は手入れしてあるが鯉の泳ぐ池に藻が繁殖して嫌なにおいがしていた。
6月20日
メンリッヘン(2239m)
9:00、バスでグルントへ。そこから4人乗りのヨーロッパ最長ロープウェイで30分。ぐんぐん迫ってくる山並み、下を見るとマーモットが穴の中から顔を出したりじゃれあったりしているのが見える。
グリンデルワルトに来て初めての快晴。メンリッヘン展望台からのすごい眺望!360度大パノラマ、シルバホルン、ユングフラウ、メンヒ、アイガー、ヴェッターホルン、向こうには湖、グリンデルワルトの町、谷間にヴェンゲンの町並みが。これがアルプス!これを見たかった!!昨日までの悪天候への恨みが一度に消えてしまった。
クライネシャイデック(2061m)までの散歩コースの変化がすごい。2m、3mある雪の層の横を通ると、冷気と太陽光線の照り返しで風が吹くと寒かったりカッと暑くなったり、景色も気候もダイナミック。
昼にグリンデルワルトに戻る。午後はフィルストへ。昨日何も見えなくてがっかりして下山した山へ再チャレンジ。
ゴンドラの中でお昼を食べるのは昨日と同じ。ゴンドラからの下の景色がはっきり見えると楽しくなる。レストランのバルコニーには半袖の観光客がビールやアイスを手に太陽を満喫している。
メンリッヘンに劣らぬ大パノラマ。展望台をぐるりと回るテラスは今年初お目見えらしい。足元の絶壁がスリル満点だ。フィルスト・フライヤーの絶叫が聞こえる。
フィルストからグロッセシャイデックまでの散歩コースを歩く。こちらは歩行者があまりいない。氷河、雪解け水の流れ降りる音、暑い日差し、そして一段と美しいお花畑。放牧牛のカウベル、小鳥の鳴き声がこだましてまさに天国。
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いつものようにCO-OPでサラダやハムなどを買って部屋で夕食。このパターンに慣れると夕食代の節約になるのはもちろん、野菜不足にならないし体調が良い。ホワイトアスパラやブルーベリーが美味しい。おしなべて高い物価の中でビールだけは安い。
6月21日
トゥーン湖めぐり、シュピーツ散策
船は各国の観光客と遠足の幼稚園児で満員。私の臨席はフィンランドからの夫婦。リタイアして世界中を旅行しているらしい。日本にも来たことがあって、新宿の雑踏に驚いたという。奥様は京都が印象深くて、そばが美味しく、タコ焼きが面白かったなど良く喋る。フィンランドは物価が高いがその分収入も良いそうだ。
遠足の幼稚園児たちは大人顔負けのトレッキング装備で、野外教育が重視されているようだ。小雨交じりのデッキの上で硬いパンのサンドイッチやスナックを自由に食べるのを先生は黙って見ている。こぼすと拾って容器に戻してやる。不潔とか汚れたとかその感覚は無いようで面白い。雨が強くなるとそれぞれ雨具を着こむ。どうしても無理な子には先生が手伝う。折り紙で折り鶴を折ってみせると集まってきて大騒ぎ。先生が“この子は英語が話せます。”と連れて来て教えてほしい様子。折り紙が無くなってパンフレットまで破いて折って、それでも“ちょうだい、ちょうだい”。景色をみる暇がない。
シュピーツに着いたので飛び降りる。トゥーン湖畔に教会と古城が立ちブドウ畑が美しい町。城は博物館になっていて小さいながらもしっかりした展示が好もしい。手入れの行き届いたバラ園を眺めながら昼食。
坂を上って駅の方へ歩く。途中カフェに入ってひと休みする。お年寄りのグループが集まってお茶を楽しんでいる。どうやら認知症の人もいて皆でカバーしているのがわかる。スイスの人たちの様子を垣間見てなかなか面白い小旅行になった。
ホテル代1週間分を支払う。安くしてくれて\68000バスタブ付の部屋でゆっくりできた。なによりアイガー正面で、駅まで歩いて2分の立地は素晴らしい。
夜9:30頃アイガーに夕日があたって山肌を真っ赤に染めた。信じられない色!
6月22日 グリンデルワルトからツェルマットへ移動
5:20 バルコニーから白く輝く満月を見る。
5:30 アイガー頂上が茜色に染まる。7泊して初めて見る見事な朝焼け。
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雲が流れて突然山々が顔を出す。 |
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視界ゼロから次第に雲が消えて遠くの村までくっきり見える。 |
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崖沿いの村、ミューレン一瞬雨が降って虹が出た。 |
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ユングフラウの氷河 |
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フィルストに今年お目見えの展望テラス |
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強い日差しを浴びながら絶景を歩く |
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アイガーに朝日があたってオレンジ色に染まると月が消えていく |
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一瞬のためらいもなく次々飛び降りていく若者たち。
崖下を見るだけで血の気が引く。 |
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